「いつ見ても、雪のように綺麗な肌だ」


小袖から見えている鎖骨の辺りに熱い視線を感じる。


ふわり、と耳を隠していた髪がかき上げられた。


そしておしゃれのつもりでつけてきた星型のマグネットピアスがそっと外される。


なぜ戦国時代の人がマグネットピアスを外せるんだろうと思ったけど、花火大会の日にこの時代に来た時に外しているところを見ていたんだろうと思った。


それに、不思議そうにピアスについて聞いてきたことも前にあったし。


「友衣さんは俺だけの女です」


熱っぽい囁きが無防備になった耳に侵入してくる。


それはまるで生き物のように耳から胸へ行き、沸騰させるかの如く心を熱くさせた。


「ならば左近様は私だけの男ですからね?」


「もちろんです」


桜の花が開くように柔らかく微笑んだ彼はくしゃり、と私の髪を、包容力を思わせる大きな手で撫でた。


そして存在を確かめるみたいにその手で抱き寄せられる。


「友衣さん…」


艶めいた声にぞくりとする。


「いけませんね。そんな色気のある顔をして」


「色気だなんて…」


自分がどんな顔になっているかだなんて、もう考えられない。


甘美なときめきが思考を奪ってしまう。


「これ以上、こんな危険な男を夢中にさせてどうするつもりです?」


「そんなつもりはっ」


この低い声で愛を伝えられるだけで息が上がってしまう。


「そうでしょうね。純粋なあんたのことですから。だが、だからもっと夢中になってしまう。欲しくなってしまう。求めたくなってしまう」


「左近様…」


「あんたのいない人生は嫌なんです」


「私だって」


「もう二度と俺をおいて遠くへ行かないで下さい。離れて行かないで下さい」


そう言って甘えるみたいに私の肩に顔を埋めた。


「いつも余裕で笑っている左近様らしくないですね」


「あんたがどこかへ行ってしまう気がして」


「どこにも行きませんよ。私の居場所は左近様の隣です。違いますか?」


「相変わらず罪な人ですね。そうやって俺の心を嵐のようにかき乱すくせに、全然意識してないんですから」


左近様の私を見る目は太陽のように熱く、ジリジリと焦がされていく気がした。


甘く、切なく、私の心を…。


「すみません。あんたの望みには応えられそうにありません」


男性だというのに、眼前の顔はひどく艶やかに歪んでいる。


「え?」


「温かくなんて出来ません。もう、それ以上に…」


何の取り柄もない私がこれほどまでに深く愛されている。


「友衣さん…」


再び低く、溶けるような甘い声で名前を呼ばれる。


まだ乱れていない小袖越しに感じる体温が愛しい。


現実に酔いしれた私は、静かに目を閉じて左近様の温かさに甘えた。


このまま二人でいられるなら、もう何もいらない。


慶長20年2月。


大坂夏の陣まであと3ヵ月。