山の雪解けは遅い。


現代で言えば3月半ばくらいまで溶け残っている場所もある。


雪になってあの人に寄り添うように消えてしまいたい。


溶け始めた雪を見ると、その思いはますます強くなった。


左近様が自分の屋敷へ帰ってしまって会えない寂しさが募った時などは特にそう思う。


「何を物思いにふけっている」


ここは石田邸。


なんとなくぼんやりしていると屋敷の主が唐突に話しかけてきた。


「いやいや、物思いにふけるなど滅相もない」


慌てて笑いながら否定するが、三成様はフンと鼻を鳴らした。


「変な顔だったぞ」


「ひどっ。乙女に向かって言う言葉ですか、それ」


「お前が乙女?面白いことを言うのだな」


くっくっと笑っているが、いつもムッとしたような顔の三成様が笑うことはあまりないのでこれは結構珍しいことだ。


「せっかくかっこいいんだからもっと笑えばいいのに」


他意はない。


ただ単純にそう思っただけであって好きとかいう感情はまったくない。


おまけにボソッと言ったのに。


「かっこいいだと?会うたび左近と一緒にいるからお前まで誑しになったか?」


こんなことを言われた。


「違います。っていうか、それだけで誑し呼ばわりするのもおかしいでしょう」


冗談を言うのもまた珍しい。


きっと今日は機嫌が良いのだろう。


「華さんと何かありましたか?」


三成様に寵愛されている(って言うと三成様に睨まれるけど)侍女の名前を出すと、意外にも赤面した。