ーサイド友衣ー


「どうしてそんな思いまでしてあなたは戦うのですか」


空気読めない問いだけど、伏し目がちな幸村様の横顔がなんだかつらかった。


「泰平の世を磐石のものにするためには犠牲が必要なのだ」


「犠牲?」


「だから武士が家族の絆や命を犠牲にして民のため、そして自分達のために平和な世を築かねばならぬ。それも一時的なものでなく、永遠なるものでなくてはならぬ」


分かっていた。


三成様だって、損得とかじゃなくてもっと大きなもののために戦っていた。


「兄上は守るべきは己ではないと言った。某は死に花を咲かせて真田の名を後世に残せれば良い。たとえ某が討ち死にしようとも、兄上がいる」


「あなたはそれでいいのですか?」


つい必死になる。


身分なんて忘れていた。


ただただ、目の前の武士の顔をした人の本心を聞きたかった。


「それが武士、真田幸村に出来ることだ」


幸村様は気にすることなく静かに言い放つ。


「本当に…武士というのは悲しいものなんですね」


そう言って下を向く私をなだめるように、幸村様は肩を叩く。


「無理に理解せよとは言わぬ。ただ」


「?」


「これが某の生き様なのだ」


それ以上は何も言えず、頷くだけしか出来なかった。


今まで私はどれほど恵まれた世界にいたのだろう。


家族がそばにいることは、空気のように当たり前なんだと思っていた。


しかし武士達は離れ離れにならなくてはいけなかったり、戦い合わなくてはならなかったり、時には大きなもののために大切な人を残して命を落とさなくてはならないこともあるのだ。


真田幸村。


戦国における最終戦の結末を知る私はこの人を、どこまで守ることが出来るのだろうか。


「友衣殿、風邪か?」


「いえ、大丈夫です」


「そろそろ城に戻ろう。付き合ってくれて礼を言う」


左近様ほどの大きさはありそうな背中を見ながら考える。


今、ブルッと体が震えたのは果たして。


武者震いか。


歴史という強大なものに立ち向かう恐怖か。


単なる寒さのせいか。


思考を巡らせても分からなかった。