それから間髪入れずに一番伝えたいことを、喉が壊れるほど大声で伝える。


「ごめんなさい!」


彼の大きな肩が少し動いたように見えた。


「さっきは話を聞かないで怒ってごめんなさい。私、怖かったんです。真実を聞くのが。だって左近様が好きなんですもん。でも、それは私の身勝手。左近様も事情があるからさっきちゃんと話をしてくれようとしたんですよね?」


小さくなった背中に叫び続ける。


「だから、今さらかもしれませんが話を聞かせてくれませんか。お願いです!」


ようやくこちらを向いた彼は静かな表情だった。


まるで深林の奥にひっそりと佇む湖のような。


舟がスーッとこちらに戻って来て、手が差し出される。


「言うまでもありませんが、帰ったら真っ先に着替えですからね」


「はい」


左近様の手を借りて舟に上がり、船着き場に向かう。


その後、私達は大坂城の左近様の部屋へ戻った。


「ところで」


彼は襖を閉めて開口一番に言う。


「はい」


「あんた死ぬ気ですか!?」


「えっ?」


「えっ?じゃないですよ。泳げもしないのに川に入って」


「ごめんなさい…」


そう小さくなった私を見て、すぐに声のトーンが控えめになった。


「でも、そうさせたのは俺ですね。すみません」


少し悲しげに、うぐいす色を薄めたような色の小袖に着替えた私を見ている。


「今度は、聞いてくれますね?」


「もちろんです」


「では、どこから話しましょうか。ここに来た最初の夜からにしましょうかね」


そして左近様は過去を振り返り始めた。


すべては、何でもないあの夜から始まったのだ。