「どうして私を避けるんですか?」


私も以前のように積極的に話そうとしなかったからこんなこと言えない立場だけど、あの日のことが知りたくてついそんな言葉が出てしまう。


「それは…」


その時。


「島様。淀の方様がお呼びです」


幸村様の忍、藤吾さんが音もなく、タイミング悪く現れる。


「ああ、今行く」


割り切らないような表情をこちらに残し、左近様は行ってしまった。


その後も何回か彼に話しかけてみたけれど、曖昧な態度と返事しか見られない。


そのまま1週間が過ぎてしまった。


(左近様、あなたは一体…)


掃除の合間、そんなことを考えて廊下に立ち尽くしていると、厳しい声が飛んできた。


「あなた、左近の何なの?」


りつさんだ。


「何って、りつさんこそ」


ぐらぐら動揺する気持ちを堪えてどうにか言い返す。


しかし、目の前の女性は涼しく、そして憎らしいほどに余裕な微笑みを見せた。


「わたしはあの人の昔の女。でも、最近もいい感じよ?」


「!」


そんな…。


「とにかく、そういうわけだから。あの人に気安く近付いてほしくないわけ」


ショックで言葉が、出ない。


「あなたのようなよそ者は引っ込んでなさいよ」


左近様に距離を置かれて自分の肩身が少し狭く感じていたこともあり、いつになく言葉が胸に刀のように突き刺さった。


言い返したかった。


言い返したかったのに。


去っていく背中には何も言えず、私の足は逆方向に向かっていた。