「徳川と…」


正直、戸惑った。


関ヶ原の戦いが頭を掠(かす)めたからだ。


戦場で傷つき、血だらけになり、倒れた左近様。


六条河原で処刑された三成様。


彼らがあんなになったのも戦のせいだった。


また大切な人が傷つき、死んでいくのか。


もう嫌だった。


「戦いは嫌です」


この場にいる人々が困るのはわかっていても、首を縦には振れなかった。


「なぜ私なんですか。こんな非力で大切な人を救えなかった私をどうして」


「君は三成殿の遺志を継ぐ者だからだ」


「継ぐ者?」


「ああ。14年前、某と父上は三成殿に味方して徳川秀忠隊を上田城で足止めした。しかし、結局三成殿は死んだ」


私は思わず俯(うつむ)く。


「豊臣恩顧の将らの多くはこの14年の間に死に、ある者は徳川に与(くみ)した。今は1人でも志ある味方がほしい。だから友衣殿や左近殿にも力を貸してほしいのだ」


確かに私も左近様も、三成様の志を知っていた。


その手助けのために一緒に戦っていた。


そして、三成様を殺されたという徳川への恨みもあって、徳川に味方する理由もないから裏切ることはない。


確かに利害は一致するけど、と思った瞬間。


「…あ」


そうだった。


忍に意識を失わされる時、薄れゆく意識の中で考えたんだ。


私は三成様の遺志を継ぐ者って。


何より三成様は豊臣を守るために挙兵し、敗北し、露となった。


あの人が遂げられなかった思い、残された私が果たすべきなのではないか。


私は何のためにタイムスリップしてきたの。


ただ甘い恋をするだけだったらこんな必要はない。


敗北という結末を知っているのに、反徳川の勢力に関わることになったのはきっと…。


「わかりました。私も徳川と戦います」


歴史を変えるためだと思う。


「忝(かたじけ)ない、友衣殿」


今度こそ、私がここに来た役目を果たしてみせる!