暗がりにぼうっと浮かびあがる淡いたくさんの光の玉。


まるで地上の星空のようだ。


「蛍…」


「これをあんたに見せたかったんです」


星空の中から低くて優しい声が聞こえた。


人生で初めての蛍の光が、私達を迎え入れるようにふわふわと闇に浮かんでいる。


「こんな景色が見られるなんて」


「喜んでもらえたようで何よりですよ」


「ありがとうございます、左近様」


「12年ほど前に初めてここに来た時からずっとあんたに見せたい。いや、共に見たいと思っていました。それがかなって今やっと…」


左近様の言葉を遮って、私はゆっくり彼にもたれかかった。


もう、言葉なんていらない。


最上の景色と最愛の人が存在している。


それだけでいい。


思わず呟く。


「幸せだなあ…」


「ええ」


左近様もふわりと表情を緩めて頷く。


私は甘い恋にすっかり浮かれ、酔いしれていた。


今度こそ、ただただずっとこのままいられるんだと思っていた。


これがつかの間の穏やかな時間とも知らないで。


そう。


すでに事態は動き出していたのである。


この後、私達は再び戦に身を投じることになるのだ。


様々な思いが輝き、多くの命が散りゆく時代。


乱世を終焉へと向かわせる戦いへ…。