それは藍色の巾着だった。


「それは?」


「あの娘さんが置いていってしまったようです。ついさっき見つけましてね」


あの娘さんというのはどうやら華さんのことのようだ。


巾着を受け取って開けてみると中身は手紙のようだった。


開くと、ふわっとみかんか何か柑橘系の香りがした。


ああ、三成様のような香りだ。


すっぱさの中に甘さがほんのり漂うのは、いつもつんけんとしているのに、たまに見せる彼の優しさを思い出させる。


「我が大切な者達へ」


手紙の冒頭にはそう書かれており、清正様や正則様や吉継様や華さんなど1人1人へのメッセージが書かれていた。


私と左近様に宛てたものは手紙の1番左にあった。


「そして左近


意固地な俺をお前は時には叔父貴のように叱り、時には優しくしてくれた


このような家臣に出会ったことなど一度もなかった


お前を召し抱えることが出来た俺は幸せだとつくづく感じている


左近、お前は最高の家臣だ


友衣


お前は馬鹿のくせに出しゃばるし、うるさい女だ


だが、本当はそんなお前を面白いと思っている自分がいた


いつも悪態をついてしまっていた俺を許してくれ


左近、友衣


お前達には嫌な思いもたくさんさせたであろう


すまない


だが俺はお前達を失うことなど考えられぬのだ


だからどうかこの先もこんな俺だが、ついて来てほしい


共に生きてほしい


お前達に出会えて本当に良かったと思う


最後にひとつだけ言いたいことがある」


しかし、文章はそこで途切れており、少しの余白の隣に慶長5年9月10日と書かれているだけであった。