「三成様は照れ屋だから、上手いと思っていてもわざと下手だって言ったのかもしれませんよ」


「そうなんですかね」


「きっとそうです」


そう言いながら見上げた夜空に浮かんだ月は白い光をぼんやりと放ち、星は煌々(こうこう)と瞬いている。


こうしていると、あの平和な日常と同じだ。


佐和山城で無邪気に過ごし、恋に溺れていた日々と何も変わらない。


ずっとずっとあの時間が続けば良かったのに。


訓練中の会話。


雪の日の出来事。


城下町でのデート。


淡い嫉妬。


情炎の燃えた夜。


あの時の私はなんと無垢だったろう。


運命なんていくらでも変えられると思っていた。


きらり、と星が光る。


それはまるで誰かの悲しみの涙みたいだった。


三成様…。


「友衣さん」


しんみりしていると左近様が話しかけてきた。


「はい」


「あの辺りにいるんですかね、殿は」


彼はたった今きらめいた星の方向を指さす。


「そうかもしれません」


三成様(あのひと)を星になんかさせたくなかったのに。


「殿はきっとあんたを見守ってくれていますよ」


「え?」


「殿はなんだかんだ言って友衣さんのことをずいぶん気にされていましたからね」


「そうでしょうか。最後の最後まで私は三成様に守らせてしまいました。今頃清々したなんて言ってるんじゃないですかね」


利かん気な性格や六条河原で自分に向けられた冷たい目を思い出す。


ー「そこの野次馬が目障りだと言っているだろう。警手、早くしろ!」ー


らしくない、怒鳴り声。


「友衣さん」


左近様はふっと笑って懐から何かを取り出した。