「私はこのままでいいのだろうか」


誰もいない廊下でゆいはぽつりと呟く。


「あのような方に、豊臣を守る意志などあるのだろうか。本当に泰平の世は来るのだろうか」


彼女らしからぬ迷いに満ちた声であった。


「わからない…」


一方、家康は何やら複雑な表情で庭を見ている。


「そうか。三成は死んだか」


最大の敵が消えたというのに彼の心はどこか晴れなかった。


「あの者は政治的手腕に優れ、秀吉殿への忠義は誰よりも固く、清廉であったな」


三成は豊臣政権において従五位・治部少輔という官僚の地位にいた。


賄賂を受け取ろうとすればいくらでも受け取れたのに、佐和山城を陥落させた秀秋達の報告によると、財宝と言えるものは何一つ見つからなかった。


潔癖な彼は賄賂をもらうことを嫌っていたのである。


そして唯一、大切に保管されていたのは秀吉からの手紙だったという。


「三成、もしわし達が対立することがなかったら。…もしそなたがわしの家臣であったなら」


家康は静かに目をつむり、重々しくそう呟いた。