「ゆい。少しは落ち着いたらどうだ」


「三成殿はあなたに反逆したわけではありません。秀吉様の真の忠臣だった。それだけです」


「わし達は三成がわしに刃向かった事情を知っているからな。だが、それを知らぬ世間はそうは思わない」


三成が天下を取りたいがために、豊臣を擁する邪魔な家康を排除しようとした、そう解釈する者もきっといる。


ならばそういうことにしておいて、そんな身の程知らずなことをすればこうなる、と見せつけた方がいい。


少なくとも、家康が豊臣を潰そうとしていることに怒った三成が挙兵し、敗北したから捕らえて晒し者にしたということよりは家康にとってよっぽど体裁がいいはずである。


「思わなければいいってものじゃないでしょう」


それをわかっているゆいは呆れたように言う。


「ゆい、わかってくれ。すべては乱世を終わらせるためだ」


「…わかりました。無駄なようですからもう何も言いません」


挨拶もしないで退室する歴戦の勇士の背中を、家康は困惑した表情で見ることしか出来なかった。