一方、戦後の東軍の陣地。


「三成は逃げたか。吉政よ、奴を探せ」


家康がそう言うと、田中吉政は深々と頭を下げた。


「はっ」


「家康様」


ふいに涼やかな声が響く。


「ゆい、どうした」


歴戦の勇士、ゆいはスッと頭を下げた。


「もう許してさしあげては」


「許す?」


「三成殿は今回の戦で相当な痛手を受けたはずです。もう立ち直れないでしょう。ですから、追っていって命まで奪う必要はないかと」


「確かに死なせるには惜しい人材だ。だが、奴にはまだ佐和山城がある。あそこを攻め落とす準備もせねばな」


「いくらなんでも非情すぎませんか?」


「そなたは一時期、あの者に仕えていたゆえ、情を抱くのも無理はなかろう」


「ええ。ですから」


「しかし、火種となりうるものは消さねばなるまい。泰平の世のためには犠牲をともなう。それが乱世の悲しき常よ。吉政」


「はい」


「こう、触れを出せ。村ぐるみで三成を捕らえたらその村は年貢を永遠に免除する。しかし匿った場合は村ごと処罰の対象にする、とな」


「御意」


「…」


憮然とした表情でゆいは家康の顔をただ鋭く睨んでいた。


そして敵も味方も地面を覆うほどに、おびただしい数の屍となって転がっている関ヶ原の戦場を振り返る。


まるで夢、いや、悪夢の痕のようだと彼女は思った。