「ゆ、友衣さん!」


慌ただしい足音が聞こえたと思うと、いきなり左近様が血相を変えて、私達のいる部屋に駆け込んできた。


「左近様」


「あんた、風呂場で倒れてたんですって?」


「みたいです。だけどのぼせてただけですから、もう大丈夫です」


「良かった…」


彼はそう言ってぺたんとへたり込む。


「ふっ。親バカならぬ友衣バカか」


三成様が軽く皮肉る。


「友衣さんバカの何が悪いんです?」


それくらいでは左近様は動じない。


むしろ楽しんでいるのかニコニコしている。


「いや、うらやましいだけだ」


「ふふっ」


絶対にひねくれたことを言うと思ったのに、素直に言うので思わず笑い出してしまった。


「笑うな」


「三成様にだって奥方様がいるじゃないですか」


「だからと言ってお前達のように顔を合わせるたびに、べたべたと引っ付くわけにはいかないんでな」


そう言う顔がどこかうつろであることに私は気付かなかった。


「別にべたべた引っ付いてなんか。ねえ?」


私は左近様に話を振る。


「ほう。そうした方がいいですか?」


しまった、こういう話をすると遊ばれてしまうんだった。


案の定、彼は期待した答えはくれず、妖しい笑みを浮かべている。


「ち、違います!」


「そんなに照れながら言われても説得力がないですねえ」


「もう、左近様の意地悪っ」


「ふん。見せつけてくれる奴らだ」


私達のバカップルみたいな会話に、三成様はやっぱり呆れ顔だ。


「まあ、それくらいの元気があればもう心配いらんな。邪魔者は撤退しよう」


そう言い残して彼は侍女を連れて出ていった。


後には左近様と私が残された。