朝餉を終えても、お昼を過ぎても、今日も敵軍に大きな動きはない。


夕方、廊下の掃除をしていると、三成様の部屋から左近様の声がした。


諸陣の見回りを終えて報告をしているらしい。


そして吉川隊の動きが怪しく、やはり寝返るかもしれないという話をしていた。


「左近、ご苦労だった。下がってよいぞ」


「では失礼します」


それを聞いて私は思わず早歩きでその場を去った。


逃げる理由なんてないのに。


その後も、左近様とはなんとなく目を合わせることが出来ず、お互いに会話など出来なかった。


「友衣」


「何でしょう、三成様」


三成様とは普通に話せるのに。


「お前、左近とケンカでもしたか?」


「なぜです?」


「いつもならオレの前でも平気で見せつけるではないか」


「いやいやいや」


そんなつもり、まったくないんですけど。


「まあ、せいぜいさっさと仲直りするんだな。大事な戦が控えている。ケンカなどに気を取られている場合ではない」


確かにそうだ、と思う。


「時に友衣」


去ろうとすると三成様に呼び止められる。


「はい」


「今夜は暇か?」


「特に何もありませんが」


「ならばオレの部屋に来い」


その言葉にびっくりしたが、主には逆らえない。


「わかりました」


一体何の用だろう。