その数分前。


-サイド友衣-


ふと目を覚ますと、外はすでに明るくなっていた。


隣には眠り込んでいる左近様。


その瞬間、昨夜の言い争いを思い出し、気まずくなる。


私はすぐに布団から這い出し、脱ぎ散らかした服を着、身なりを整えた。


そして自室に戻るべく立ち上がる。


障子を開ける前に1度だけ振り返った。


やはり左近様は規則正しい寝息を立て、穏やかな寝顔を見せている。


気まずいはずなのに。


あんなに乱暴に扱われたのに。


「…」


気持ちが切なく乱れる。


それを振り払うように私は左近様の部屋を足早に出た。


しかし、自室に戻っても後ろ髪を引かれる思いでいっぱい。


信じてくれ、と言われたのに失う怖さが先走って頷けなかったことが今になって悔しくなる。


思い出すのは一緒に過ごした時間。


「わかってます。誑しは嫌いなんでしょう?」


「ははは。相変わらずの恥ずかしがりようだ」


「近々戦になるでしょう。ですがこの左近、必ず勝ち、そして生きて帰って来ます」


全部大切な思い出。


でもこれだけで終わらせたくない。


もっと多くの思い出を作りたい。


そうだ。


私は歴史を変えるためにここにいるんだ。


三成様や左近様が関ヶ原の戦いで負ける運命なんて変えようと思ったから、三成様に仕えているんだ。


何度も心の中で誓ったはずなのに。


「ごめんなさい、左近様。私、あなたを信じてあげられなかった」


その声はひとりぼっちの部屋にむなしく響いた。