-サイド左近-


「それは出来ませんね」


あえて意地悪く言ってみる。


「な、な、なぜですか」


俺のわざと醸し出す危険な雰囲気に押されているのだろう、友衣さんがどもりながら問う。


何の前触れもなく彼女を抱き寄せた。


「ちょっと、左近さ…あっ」


稲光に照らし出された白い鎖骨に口づけると、友衣さんはまるで花の蕾が開くような可憐な声を出し、恥ずかしそうに身をよじった。


「そんなに大きな声を出したら殿に聞かれてしまいますよ」


黒い笑みを浮かべながら耳元でそっと囁く。


「やだっ」


そのくせ次の瞬間にはしがみついてくる。


「そうやって可愛い反応するから、からかいたくなるんですよ」


「左近様の意地悪っ…」


「戯れに対して、毎回友衣さんは正直な反応をする。ありのままのあんたを見せてくれる」


思えばその素直さに惹かれたんだ。


そうかと思えば意地っ張りな時もあって。


目まぐるしく変わる表情。


いつのまにか目が離せなくなっていた。


俺は彼女の顔を見つめて言う。


「友衣さん。あんたは俺を大人だと言った。だが、本当は好きな女を年甲斐もなくからかって困らせるような子供です」


すると否定してくれるのか、友衣さんはゆるゆると首を横に振る。


「左近様がからかう度、面白い人だと思ってた。左近様がアブない冗談を言う度、心は切なく揺られていた。だから私はあなたに惹かれたのかもしれませんね」


また稲妻が辺りを明るくする。


しかし、照らされた顔は穏やかに微笑んでいた。


胸の奥がきゅっと切なくなる。


「友衣さん」


切なさと安らぎを感じながら俺は腕に力を込め、2人きりという現実に酔いしれた。


今だけでいい。


今だけは戦のことを思い出したくない。