左近様が驚いた声を出した。


「あ、失礼しました」


私は慌てて姿勢を正す。


ついついクマに見入って顔を近付けすぎていたのだった。


「びっくりしましたよ。起きたらいきなり友衣さんの顔があるんですから」


「すみません」


「てっきり口づけでもされるのかと思いました」


「な、朝っぱらから何考えてるんですか」


まったくこの人はもう。


「だって他に何の理由があるんです?」


その不思議そうな表情を見る限り、冗談で言っているのではないみたい。


「実はクマが出来ていたものですから」


苦笑しながら私は布団の横に置いておいたコンパクトミラーを左近様に向ける。


「おや、本当だ」


その口ぶりからして、彼はたいして気にしていなさそうだ。


「それで昨夜、気を使わせてしまったかなって考えていて」


「あんたのせいじゃありませんよ」


「でもだったら」


「まあまあ、俺のクマなんてそんなに気にしないで」


そう言って左近様はスッと立ち上がった。


「今日も頑張りましょ」


ね?と邪気のない笑顔を向けてくれる。


どうして左近様はそんなに私の心を柔らかく包んでくれるんだろう。


私だって左近様を癒せる存在になりたい。


そんな思いを抱えながら、私よりも一回り広い背中をただ見上げていた。