-サイド左近-


「誑しなんて…左近様なんて大嫌い!」


褥(しとね)に横たわってもまだ、友衣さんに言われた言葉が脳裏に焼き付いている。


「左近様…今宵は一段と激しいのですね」


俺の腕の中で葵が媚びるような声を出した。


「忘れたいんだ。全部」


「あなたがそんなに悲しい顔をなさるなんて珍しい」


葵の、暗闇にぼんやり浮かぶ白い手が俺の頬に触れる。


「好きな女子(おなご)でも出来ましたか?」


「違う」


「あなたは嘘が下手なのですね。恋する男の顔をしていらっしゃいますよ」


「もう何も言うな」


唇を唇で塞いだ。


俺は友衣さんをからかっていただけだ。


だからもう思い出させないでくれ。


この胸に燃える情炎は…彼女へのものじゃない。


「ああっ、左近様ぁっ」


目の前の女の顔がぼやけて葵にも彼女にも見えた。