「何やってんだろうな、三成様」


翌日、朝餉(あさげ)を終えた私は櫓の上で呟いた。


私みたいに賊に襲われているんじゃないかと心配になる。


おまけに空は重くどんよりしていて、今にも一雨来そうな感じだ。


「ん?」


ふと、何者かの気配がした。


しかし、振り向いても城壁があるだけである。


三成様を心配しすぎて神経質になっているのかもしれない。


なんてことを考え、私は城に入った。


とりあえず左近様に櫓から見た東軍の動きを報告しなきゃ。


まあ、今日も同じ場所に停滞しているのだけれど。


「失礼します」


左近様の部屋の前でそう声をかけた。


しかし、返事がない。


「左近様?」


やはり返事はない。


「失礼しますよ」


そう言って襖を開けると、中には誰もいなかった。


ただ、ぽつんと文机があるだけである。


厠(かわや)にでも行ったのだろうか。


そう思い、勝手ながら待たせてもらうことにした。


しかし、いくら待っても帰って来ない。


暇を持て余した私は仕方なく畳の目の数を数え始める。


「1、2、3、4…」


空っぽの部屋の中、私の声がやたらに響く。


「26、27、28、29…」


畳の目数えは続く。


「289、290、291、292…」


まだまだ続く。


「ぜえぜえ…3615、3617、3618…」


その辺りまで数えた頃、さすがに変だと思った。


いくらなんでも一刻をとうに過ぎているのに、戻って来ないのはおかしい。


「なんか変だ」


違和感を覚えた私は左近様をさがしに出かけた。