「ありがとうございました」


大垣城に帰って私は開口一番に左近様に言った。


「本当、無茶するんだから」


そう言う彼の顔は笑っていた。


「でもどうして私の居場所がわかったんですか?」


「あの辺りは盗賊がよく出る場所でね。まさかと思って盗賊の巣窟を探してみた。そしたらその近くにあんた達がいた」


「ごめんなさい。また迷惑かけちゃいましたね」


私は頭を下げる。


「そこまで心配してくれる侍女を持った殿も罪なお人ですね」


朗らかに左近様は笑った。


「左近様」


「なんです?」


私はそっと左近様のそばに寄る。


「今日はずっと隣にいてくれませんか?」


「いいですが、どうしたんです?」


「半蔵さんと戦う前、賊に襲われたんです。乱暴な扱いをされ、挙げ句の果てには親分みたいな人に押し倒されて」


「…!」


左近様の顔は驚きに満ちていた。


「そこを半蔵さんが助けてくれたんですが。でも自分のせいなのに怖かった」


「友衣さん」


彼が慈愛に満ちた目を向けてくる。


そして私はふわ、と逞しい腕に包まれた。


「そんなつらいこと、無理にしゃべらなくていい」


「でも」


「あんたが無事ならそれだけでいい」


その言葉にじわっと胸の奥が熱くなる。


「優しすぎますよ、左近様」


「でも本心なんだから仕方ないでしょう」


その柔らかな笑顔を見て心が安らいだ。


「ありがとうございます。おかげで少し元気が出ました」


「じゃ、もう行っていいですか?」


「そんな。ひどい」


「ははは、冗談ですよ。隣にいます。今日だけと言わず、あんたが望む限り」


「じゃあこの先も私の隣にいて下さい」


「ええ、約束しましょう。2人で一緒に生きるって。この先もずっと、ね」


「はい」


愛を誓う私達を窓から覗く月だけが見ていた。