「どうして?伏見城の戦いの前に左近様が奇襲するって言った時は行って来いって言ってたのに、なぜ今はダメなの?あの時より遥かに緊迫した状況だから?」


ただつらかった。


これから起きることを知っているのに、何も出来ない私が歯がゆい。


「ごめんなさい。左近様に言ったって仕方ないのに」


すると左近様はゆるゆると首を横に振る。


「俺も同じです。俺は殿とかれこれ15年の月日を共にしてきた。あの方のことは自分が一番知っていると思ってた。しかし」


ここで一旦言葉が切れる。


「今回ばかりはもう…」


そう言ってまた首を横に振った。


いつも余裕のある顔も声も悲哀に満ちている。


それを見て私の胸はますます苦しくなった。


「三成様はどうしたら私達の意見を聞き入れてくれるんでしょう」


「俺達が何を言っても最終的に決めるのは殿ご自身。その殿は自分を一番信じていらっしゃる」


「そんな。でも三成様に私が本気で言ってるってわからせることが出来れば」


「どうやって?」


私はしばらく考えていたが、やがて立ち上がった。


「友衣さん、どこへ?」


「三成様を追っかけます」


「ダメです。夜道は危険ですよ!」


左近様の制止も聞かずに、私は置いてあった鎧を持って厩へ走った。