「左近様」


声をかけると、彼は少し驚いたような顔を見せた。


「おや、友衣さん」


「昨日はすみませんでした。左近様のお酒を持って来ると言ってそれっきりになってしまって」


「いえ、さっき殿と話したんですがその時に全部聞きましたから」


穏やかなその顔から、大して気にしていないことが分かる。


ちょっとほっとした。


「そうだったんですか」


「殿とはどんな話をしたんです?」


「未来のこととか。まあそれはあまり話さなかったんですけど」


声が出なくなったことは言わなかった。


「他には?」


「あとは左近様との仲も少し。左近様と上手くやってるかとか何とか」


「友衣さん」


言葉を紡いでいたら、いきなり抱き寄せられた。


「たとえどんなに美しくて優しい女が現れたとしても、俺は友衣さんを離しません。ですから、たとえあんたの前にどんなに色男で身分が高い男が現れたとしても、俺を選んでくれますか?」


らしくない、自信なさげな声。


どうしたのかな、と思ったけど私は腕の中でしっかり頷いた。


「私は左近様だから好きになったんです。だから、どんな魅力的な男の人が現れても左近様のそばを離れません」


「友衣さん、あんただけは俺が、俺だけが…」


守るように腕の力が強くなって、私は甘えるように胸に顔を埋めた。


幸せってこういうことなんだな、と感じながら。


左近様。


あなたが何を不安がっているかは分からない。


でも安心して下さい。


私達はきっと強い愛で結ばれていると信じています…。