「え、蟄居ですか?」


「ああ」


驚く私とは正反対に、またさらりと言って頷く三成様。


「黒田長政や細川忠興といった、豊臣恩顧でありながら反石田派の武将達が殿を襲撃しようと計画し出したんです。そこでやむなくこちらに」


左近様の言葉で私は最近読んだ歴史小説を思い出す。


確か…。


私は夢中でキャリーバッグをあさり、本を取り出した。


(やっぱり…)


彼らがここに蟄居するのは前田利家様の死後すぐ。


西暦でいえば1599年。


もちろん、あくまでも歴史小説なので作者の創作や想像も多分に織り込まれてはいるだろうが、今は1599年、もしくは1600年とみて間違いないだろう。


「あの、今っていつですか?」


「いつ?慶長5年の1月だが」


「!」


ってことは西暦でいえば1600年だ。


そして史実で彼らが命を落とすのも1600年…!


「ところでなんだ、それは」


三成様が歴史小説を覗き込もうとしてくる。


「いえ、なんでも」


笑顔で繕い、小説を素早くバッグにしまった。


見せてはいけない気がした。


この小説は関ヶ原の戦いに至るまでの豊臣家や徳川家の動向を描いたもので、当然三成様率いる西軍が関ヶ原で敗北することも書かれている。


今、目の前で親切にしてくれている人達があと1年経たないうちに…。


「…」


また、悲しみに襲われた。