何時間たったやろか...

ウチと先生はさっきから黙って
ボケーっとしてる...

「なぁ先生...」

「ん?」

「ホンマに彼女さん良かったん?」

先生はチョッピし戸惑って
苦笑しながらウチを見た

「ホンマはなぁ...今日アイツのこと空港まで送らなあかんかってん」

「何で!?」

先生はさみしそうな顔して
どこ見よるかわからへんけど、遠くの方見て言った

「アイツ...家の事情で青森に4年戻らなあかんねん...」

「それなのに、何でどうでもえぇウチんとこ来たん!?」

先生はメッチャ寂しいはずなのに、
笑ってうちを見た

「泣いてる女置いて行けるか、それにお前は俺の大事な生徒やしな」

先生は馬鹿やんなぁ...
ウチなんかより彼女さんの方がよっぽど大事やろ
せやのに...ホンマ優しすぎやで...先生は...

「彼女さん、怒ってはった?」

「あぁ...アタシのことなんかどうでもいいんでしょーとか言ってった」

「先生...ごめんな...」

「えぇねん」

もう、お日様は
ウチらの真上にいてる
ちょうどお腹も減ってきた


「先生...」

「ん?」

「ウチな、お父さんが浮気してな、出てってしもてん...」

「えっ...」

先生は目をまん丸に見開いて
口、ポッカーンって開けてビックリしてた

「んでな、お母さんも出てってしもて...家におらんねん」

あかん、目に映る景色が
ボヤーって霧がかかったみたいにかすれてきた

「ホンマびっくりやったわー」

ウチは顔を伏せてなるべく
泣いとんのに気づかれんように高めの声で言った

「泣きたい時は泣いとけ」

先生はそう言ってウチを見て
笑った

ウチの大好きなちょっと細めの白い手
ウチの大好きな明るい茶色のちょっと癖のある髪
ウチの大好きな声
ウチの大好きな笑顔

もう、見れんなるんやなぁ...

「先生あんな、」

「なんや?」

ウチ、ばあちゃん家引っ越すねん

そう言おうと思ったけど
ウチはその言葉を飲み込んで
無理やりの笑顔で先生に言った

「やっぱ何でもないわ!」

先生は不思議そうな顔しとったけど
直ぐに空見上げて

優しく笑った...