「母さん?!」


私はいきなり母が怒鳴ったことに驚きを隠せなかった。


「あなたの言う幸せって何?」


私は言葉につまる。


「いくら記憶をなくしてしまったとしても、皐示さんは皐示さんでしょ?記憶をなくしたからってあなたを嫌いになったわけじゃないでしょ!?」


あまりの勢いにうなずくことも出来なかった。


「あなたが望む幸せは何?自分の幸せ?」


違うよ。


私が望むのは…。


「先生と私の幸せ。2人で喜びや悲しみを分け合える。それが私の望む幸せだよ」


そうだよね。


それに先生自身が記憶を失って一番つらいはずだ。


「だったら、嘆く前に何かやるべきことがあるはずよ」


すでに母に先ほどまでの勢いは消え、微笑すら浮かんでいた。


そうだ。


嘆く前にやることがある。


記憶を取り戻させるために何か出来ることが私にもあるはずなんだ。


ドラマとかで見ると、よく思い出の場所に連れて行ったりしている。


そんな些細なことでも先生が記憶を取り戻すきっかけになるかもしれないなら、私は何度でも連れて行こう。


「わかったなら…医師を呼びに行きなさい」


「あっ、忘れてた」


苦笑する母の言葉に、私も苦笑してから医師を呼びに行った。


なんとかして絶対に先生の記憶を取り戻させてあげよう。


そう心に誓いながら。