「…」


病室には沈黙が張りつめている。


病院のベッドに横たわる先生を見るのは2回目だった。


1回目は謎の集団の事件の時に先生が私をかばって負傷し、三七子ちゃんと一緒に病室でそばについていた時。


あの時の先生と、今、私の目の前で目を閉ざしている先生の姿が重なる。


「目、覚ましてよ…」


そっと語りかけても先生は指1本動かしてくれない。


しかし、確かな息づかいだけは聞こえてくる。


それは規則正しく、いかにも「先生は生きている」ということを実感させた。


私は先生の顔を覗き込む。


出会った時からずっと変わらない、黒い絹のような髪。


長いまつ毛。


少し高めの上向きの鼻。


今、少しだけ端がつり上がっている唇。


丸くなく、かといって面長でもない輪郭。


こんな状況なのに見とれてしまう。


これで48歳という年齢を、一体どれだけの人が見破ることが出来るだろう。


きっと誰も出来ない。


こんな時に不謹慎だと思いつつ、そんなことも考えた。


その時。


「う…」


暗かった世界に一筋、朝日が差し込むかのように先生が目を開けた。


「先生!良かった。もう心配したんですよ」


思わず手を取って笑う。


先生はしばし黙った後、微笑して言った。


「どうもご心配おかけ致しました。ところであなたは、どちら様でいらっしゃいましたっけ?」


せ、先生!?