ねぇ、先生はどうして一言だけで私を幸せにしてくれるの?


恥ずかしくて聞けないけど、そう思った。


「ちょっとみなさんにあいさつしてくるな」


先生も恥ずかしくなったらしく、頬を染めて慌ただしく部屋を出ていった。


母はそんな先生を見てくすくすと笑っている。


「あの人も変わったわね」


そんなことを言っている。


「変わったかな?」


「少なくとも、人を花に例えてその花言葉を教えるようなキザな真似はしなかったわ」


「ふーん。ねぇ、母さん」


「何?」


「ありがとう」


「流星…」


「ここまで来れたのは母さんのおかげだよ」


「嬉しいこと言ってくれるじゃない」


母はそう言って笑った。


「頑張りなさいよ。あなたの、あなただけの人生。後悔しないようにね」


なんだかドラマみたいなセリフだと思いつつ、しっかりとうなずいた。


「流星さん、お母様」


ふいに声がしてドアの方を見ると、お義母さんがいた。


相変わらず上品な着物姿だ。


黒に海と山が映えるデザイン。


とりあえず女3人で雑談を始めた。


些細なことで話は絶えず、穏やかな時間が流れていた。


私はさりげなく時計に目をやる。


式本番までには、まだ十分な時間があった。


カラーン、カラーン。


鐘の音が厳かに響き渡った。