《でも水橋、睡蓮さんにとってそれが本当に一番なんだろうか。別れて、俺が睡蓮さんの元に行くことが》


「正直、わかりません」


わからないけど、でもあの母の顔を思い出すと口が動いてしまう。


「私達が別れた方がいい」と言ってしまう。


《水橋、まだ睡蓮さんにとってそれが一番だと確定したわけではないんじゃないか?きっと何か別の方法が…》


「じゃ、他に何があるって言うんですか?」


《…》


これを言ってしまえば先生が何も言えなくなってしまうっていうことはわかっていた。


私が秋留ちゃんのマンションに居候していた頃、素直になれなくて先生にひどいことを言った時も、たった今も。


思っていないことを言って先生を黙らせてしまう。


そんな自分が嫌い。


《…いい加減にしてくれないか》


珍しく怒りが混ざった先生の声が飛び込んできた。


「え?」


《別れた方が睡蓮さんのためだって何回も言っているが、お前はどうしたいんだ?そんなに別れたいのか?》


「違います!」


《だったら他に方法はないって決めつける前に、ちゃんと考えるべきじゃないのか?》


「すみません」


そうだ。


私は先生の気持ちも聞かないで、一方的に自分の気持ちを押し付けていた。


「先生、ひとまず明日、母に真実を聞きに行ってみます。方法を考えるのは、それからでいいですよね?」


《ああ》


先生の声は穏やかになっている。


「では、失礼します」


私は通話を終了し、深呼吸してから改めて母に会うことを決意した。