目の前にいたのは、私達の関係を今、一番知られたくなかった人だった。


彼女は驚きのあまり、足が金縛りにあったかのように動いていない。


私の…母。


「皐示さん、流星。あなた達、一体何をしているの?」


その声は震えているようだった。


ズキッと心が痛む。


告白されて、浮かれすぎて忘れていた。


いくら先生の心が私に向いていてくれても、母の心はいまだに先生に向いたままだってこと。


実の娘に好きな男性(ひと)を取られるなんて、どんなに皮肉だろうか。


どうしてそんなこと、全然考えなかったんだろう。


「睡蓮さん。これは…」


先生は何か言いかけてやめてしまった。


「母さん、ごめん。でも私、ずっと先生が好きだったの。約5年前から」


半ば混乱状態の母に、私はなるべく穏やかに言う。


「嘘、嘘よ。こんなこと!」


「母さん…」


私の母は今までに、こんなに取り乱したことがあっただろうか。


「睡蓮さん、とにかく落ち着いて」


先生が母に触れたその瞬間だった。


パシッ!


「…」


「…」


「…」


乾いた音が響き渡った。


しばらくの沈黙の後、口を開いたのは母だった。


「愛してもいないくせに…触らないで」


私は、母がいくら手とはいえ、先生を叩いたことに驚きを隠せなかった。