-翌朝-


「じゃ、お邪魔しました」


「いいえ。気をつけて帰って下さい」


先生はにっこりと微笑み、帰っていった。


その笑みは太陽よりまぶしく、いかなる宝石よりも美しかった。


昨日は嵐のような1日だったなぁ。


でも幸せだった。


先生とあんなにも濃い時間を過ごせたのだから。


恋人みたいに遊園地や居酒屋でデートして。


そして背中越しに先生の温かさを感じながら眠りに落ちた。


それらの時間は今の私にとっては高級フレンチのフルコースや、高価な宝石よりもはるかに嬉しいものだった。


まぁ、先生からの婚約指輪だったら最高だけどね。


なんて贅沢は言ってられないか。


彼はいまだに母を見ているのだから。


それは昨日の居酒屋での24回に渡る質問責めが示している。


この関係はいつまで続くのだろう。


わかり合える時は来るのかな。


この胸を締め付けている気持ちから解き放たれる日は来るのかな。


私は前回の春休みに帰郷するまで、先生を忘れようとしていた。


無駄だったのかな。


だって忘れられるわけがない。


こんなにも強い想いがあるんだから。


-他人には嘘をつけても、自分の気持ちにだけは嘘をつけない-


昔、聞いた誰かの言葉を思い出す。


それが本当のことだと思い知らされたのは、今さらになってだった。


さっき、別れたばかりなのにもう会いたくなっている。


そんな私を置いて、季節はまた走っていった。