「わぁ…」


私は思わず息を飲む。


1つ上がったのを合図に、次々に夜空に現れては消えていく赤や緑や黄色のカラフルな花火。


久しぶりに見たので私はしばらく空ばかり見ていた。


「先生。花火、綺麗ですねぇ」


「お前の方が綺麗だよ」


「!」


もし、これがマンガだったら間違いなく私は鼻血を出していたところだろう。


「冗談だよ」


そう笑う先生を私はポカポカと叩く。


「先生、ひどい。乙女の心をもてあそぶなんて!」


「誰が乙女だよ」


「もーっ」


本当にひどいよ、先生は。


私の気持ちを知っているくせにそんなことを言うなんて。


そんな風に笑わないでよ。


苦しくなるから。


「そう落ち込むなよ」


「…」


私はすねて、そっぽを向いた。


ガキみたいだって思われたかな。


先生はちょっと困った顔をしている。


でもいいんだ。


いくら20歳といっても先生から見れば私なんて子供なんだから。


だからさっきみたいにからかったりするんだ。


「水橋」


「…」


「ごめんな」


私は思わず先生の顔を見た。


花火に照らされたその端正な顔は切なげだ。


すねていたことを忘れて首を精一杯横に振ると、彼の表情は少しだけ和らいだ気がした。


私達はまた空を見上げた。


花火はまるで私の恋のようだ。


たくさん浮かぶのに、どれも空にずっととどまることなく消えていく。


伝えたい言葉、愛しさ、そんなものは無数に私の心にあるのに、先生の心にとどまるどころか届くこともなく消えていくんだ。