「おい、水橋」


私は反射的に、いきなり自分の名前を呼ぶ声のした方向を振り向く。


そこにはワイシャツの上にグレーのセーターを着て、黒いズボンを履いた165センチくらいの白髪混じりのおじさん…ではなく、橋場先生が立っていた。


「あっ、先生」


「どうした?職員室だったら生徒は入れないぞ。テスト期間だから」


「え?もうテストは終わったじゃないですか」


「休んだ人はテスト受けてないよ」


「私は休んでませんから」


私はニヤニヤしてみせる。


「お前なぁ…」


あきれ果てたように苦笑する橋場先生。


三七子ちゃんも私の隣でクスクス笑っている。


青山先生ともこんな風に話が出来たら、どんなにいいだろう。


私には、何かにつけて青山先生を引き合いに出してしまう悪い癖がついてしまっていた。


「もういい。早く帰れ。俺は忙しいんだ」


そそくさと職員室に消えていく橋場先生。


だったら話しかけなければいいのに、と思わず苦笑する。


もしかして何か用があると思って気にしてくれたのかな?


そんなことを漠然と考えつつも階段を降り、上履きから靴に履き替えて昇降口に出た。


ふと振り向くと、いつのまにかいた青山先生がこちらを見ていた。


ただ外を見ていただけなのだろうが、なんだかひどく気になってしまった。


やっぱり好きだから、だよね。


三七子ちゃんに促されて外に出ると私の気持ちとは逆で、水曜日の昼下がりの空は、今日も限りなく青くてすっきりしていた。


ただ12月ということもあってか、天気の割には空気が刺すように冷たい。


「じゃ、バイバイ」


彼女が手を振る。


「うん。また明日」


私も手を振る。


三七子ちゃんは自転車置き場の方に歩いていった。


私は徒歩で通学しているので、モスグリーンのマフラーをして、そのまま正門の方に歩き始める。


青山先生の、何とかというブランドのスウェーデン製の車を横目にしながら。