《あっはっはっはっは》


母の高らかな笑い声がしばらく続く。


いい加減、それに聞き飽きた頃、やっと母が話し始めた。


《ごめん、ごめん。流星、どんな反応するかなって思って。そしたら…もう…はっはっはっ》


「…笑いすぎだっつーの」


しかし、今の母にとってみれば私のリアクションの方が遥かに重要らしく、この独り言も聞こえていないらしかった。


「笑わないでよ…」


ただでさえ迷っているのに。


そんなに明るいあなたの声を聞いたらますます言いにくくなってしまう。


数時間前に成立してしまった青山先生と私の関係を。


いや、言えるわけないかな。


あなたの「離婚した」と言った時の、あの悲しげな笑みが浮かぶから。


《もしもし?》


「…」


《もしもし?聞こえているの?》


「あっ、ごめん」


《いやー、話変わるけどさ、今の政治家はダメよねぇ。ちっとも国民の意見を反映していないじゃない》


「あのー、私、隣の稲田さんや佐藤さん家(ち)の奥さんじゃないんですけど」


《で、年金問題も解決しないでしょ。税金の無駄使いもなくならないでしょ。他人のゴルフ代に税金が使われるなんてバカみたいだと思わない?それで増税ですって、増税。まったくさぁ、わたし達国民を何だと思っているのかしらね。しかも…》


この後、ハイテンションの母に今の政治及び経済の話(しかも愚痴ばかり)を延々と聞かされるのだった。


そして、そんな話がお開きになったのは完全に日が沈んでからだった。


《あー、ごめんね。もうこんな時間》


「いいよ、別に」


今回の電話代を払ってくれたらの話だけどね!


《じゃ、またね》


「うん」


ピッ。


画面に表示された金額は1859円だった。


「…」


あまりの衝撃に私はしばらく佇んでいたのだった。