-自宅-


あれから先生と連絡先を交換して、その後電車を乗り継いで帰ってきた。


あんなことを言って付き合うことになったものの…大丈夫なのかな。


先生も、私も。


このことを母が知ったら一体どんな顔をするのだろうか。


笑って「冗談でしょ?」と言うのか。


それとも悲しむのか。


はたまた怒ってしまうのか。


わからない。


どの場合でもしっくりきてしまう気がした。


しかし、今はそんなことを言っていられない。


母に「帰ったよ」の連絡を入れなければならないからだ。


私は震える指でアドレス帳から実家の電話番号を選択し、発信する。


ちょうど3回のコールで母は出た。


《もしもし?》


「あ、母さん。今帰ったよ」


《…》


「…母さん?」


《その手には騙されないわよ》


「はい?」


我が母よ…41歳にして早くもボケたか?


《まさかわたしにまでオレオレ詐欺の電話がかかってくるなんて…》


「うおら、ちょっと待てぇぇぇ!」


不本意ながらも春のたそがれ時に、自分しかいない部屋で雄叫びをあげてしまった。


いや、雄叫びは勇ましい叫び声という意味だからただの怒鳴り声と言うべきか。


あまりの私のオーバーリアクションに、ケータイの向こうから、母が腹を抱えている姿が目に浮かぶくらいのものすごい笑い声が聞こえてきた。