先生はそう言って振り向く。


その澄んだ目には光るものがあった。


彼は自分を嘲笑した。


「フフ、フ…。こんな奴だから愛想を尽かされてしまったのかもしれないな」


「え?性格の不一致が原因じゃないんですか?」


「それはあくまでも一因にすぎないんじゃないかな。それか表向きの理由がそれだったとか」


おかしいよ。


先生はこんな人じゃない。


「先生の過去って何なんですか?」


「それは言えないよ」


先生はさっきから意味のわからないこと、もしくは納得出来ないことばかり言っている。


「俺、フラれたショックでおかしくなってしまったのかもしれない」


その笑みには哀愁すら感じられた。


「水橋、覚えているか?3年前のこと」


「3年前?」


「3年前のクリスマスイブだ」


「クリスマスイブって…」


確か私が先生に告白した日だ。


「自分で言うのもおかしいんだけど俺、実はフラれたことがほとんどなくて。だからフラれたらどんなに悲しいかもわからず、あんなに冷たく「フィアンセがいる」って言っちゃったよな。ごめん」


「いえ…」


首を精一杯横に振る私の頭を先生は優しく撫でた。


「俺が言うのもおこがましいかもしれないが…睡蓮さんのこと、頼むぞ」


「先生?」


「俺は大丈夫だからさ」


何が?


そんなつらそうな顔で言われても信じられないよ。