「先生…」


「俺はしょせん、幸せにはなれないんだ」


うつむいた先生はゆっくりと語り始めた。


「学生時代、兄貴のせいで俺の人生は最悪なものとなった。だから勉強しかなくなって、気付いたら教壇に立っていた。だが…」


「だが?」


「だが、幸せではなかった。確かに生徒に囲まれての生活は楽しかった。しかし、過去はいつまでも俺を捉えて離さない」


「そんなこと言わないで下さいよ」


「なぁ、水橋。もう俺には関わるな。今のが俺のすべてなんだ」


「え?」


「俺に関わるとお前まで巻き込んでしまうかもしれない。今はいいとしても、過去が明らかになった時は…」


先生が何を言っているのかまったくわからない。


兄貴のせいってどういうこと?


過去って何?


それがわからないから私はこんなことしか言えない。


「先生。何があったのかはわからないですが、どうしてそんなに自分を責めるんですか?先生らしくないです」


「だからこれが本当の俺さ」


「そんなネガティブな先生、母が見たら幻滅しますよ」


「いいよ、別に」


「そんな、嫌じゃないんですか?悲しくないんですか?!」


「悲しいよ。悲しくないわけないだろ」


「…」


何と言ってあげればいいの?


頭の回線がつながっているのかもわからず、頭の中は濃霧に覆われてしまったように真っ白になっているだけだった。


「ハハハ…俺、いつからこんなに弱くなってしまったんだろうな」