-翌日-


私はシルバーの車体にラインの入った電車に揺られていた。


ケータイが示した時刻は11時8分。


出かける前に母に「これから帰る」と連絡を入れたが、それにしても緊張する。


先生がいるから。


「恋心を失っていないうちに会わなくてはならないから」というのもあるが、「しばらく会ってないから気まずい」というのもある。


そんな複雑な気持ちだけど、白いカーディガンに、青いタータンチェック柄のキュロット、黒タイツという私にしては可愛い服装をつい選んでしまった。


先生に見られるなら少しでも良い格好でいたいから。


先生…。


こぼれてきそうな気持ちをまぎらわせるように深呼吸してから、時刻表に目を通した。


この電車に揺られるのもあと1時間くらいかな。


暇だし、緊張を忘れたかったのでひとまずベージュのハンドバッグからゲーム機を取り出してやり始めた。


しばらくしてそれに飽きると今度は国文学科の性分だろうか、詩を頭の中で作ろうと試みた。


しかし、ピンとくるものが思いつかないのであえなく断念した。


そうこうしている間に電車は目的地の名前を告げていた。


ハンドバッグを手にして、ドアが開くと同時にホームに降りる。


人影はまばらだった。


と言っても閑散としているわけではないし、だからといって賑やかなわけでもない。


つまり中途半端だ。


ただ、どこか懐かしい匂いがした気がした。


「ただいま」


そっと呟いてホームの階段を降り、改札口をくぐり、駅を出た。


見なれた景色、変わらない空。


それらがただ広がっていた。