「なーがーせーちゃん」


三七子ちゃんが卒業証書入れを片手に、息を切らして走ってくる。


私は慌てて涙を拭った。


「あ…三七子ちゃん」


「ついに卒業だね」


「うん」


三七子ちゃんは警察官になるのが夢で今、その第一歩を踏み出している。


「あっ!千沙ちゃんだ」


彼女は光森先生の姿を見て走っていった。


光森先生は赤い華やかな着物に身を包んでいる。


その姿はまさに一輪の「華」だった。


目の前では相変わらず梅を、そよぐ風が揺らしている。


そしてその向こうには黒いスーツに身を包んだ青山先生がいた。


私の恋が終わるまで、あの凛々しい姿を見ることは出来ない。


だからひとまずお別れをしなきゃ。


「さよなら、先生…」


涙と梅が舞う中、私は密かに別れを告げたのだった。


そんな私に気付くこともなく、先生は果てしない空を見上げていた。


ただまっすぐに強く、強く。