ガラガラッ。


中には誰もいなかった。


水槽のエアポンプの「ガー」という音だけが存在している。


閉ざされた窓からは3月の陽射しが差し込んでやわらかな雰囲気をつくっていた。


陽射しは先生用の、木製の古めかしい机にも優しく降り注ぎ、凹凸を際立たせている。


その机に青山先生が寄りかかっている様子を思い浮かべてみる。


なんだか胸が締め付けられる思いがした。


あまりにも美しく、切なくて。


みんな、思い出になってしまう。


愉快なクラスメートとの時間も。


先生に思いを募らせた時間も。


そして、今という時間も。


キーンコーン、カーンコーン


それを裏付けるかのように3年間聞き続けた平凡、だけど切ないチャイムが鳴る。


もう教室に戻らなくてはならない。


あと少しだけここに佇んでいたい気持ちを振り切り、私は駆け足で教室に戻ったのだった。


「…波多野理可」


「はい」


「日野理早子」


「はい…」


「本間涼」


「はい!」


「真鍋翔太」


「はいっ」


「水橋流星」


「はい」


厳かな雰囲気の体育館に橋場先生と生徒の声がやけに響く。


本当にすべてとお別れなんだ。


この優しい場所も、時間も、みんなも。


「…以上で卒業証書授与式を終わりに致します」


ああ。


ついに終わってしまった。


もう少し。


もう少しだけ、このまま…。


私の思いはどこにも届かなかった。


クラスメート達の波にもまれ、ついに体育館の外に押し出されてしまった。