~Side皐示~


「ん?」


クーラーがフル稼働し、扇風機が1台だけ回っている職員室で休憩していると、ふいに流星の声が聞こえた気がした。


「どうしたんです?青山先生」


隣にいた同い年の芹沢先生が話しかけてくる。


「いや、妻の声が聞こえた気がして」


正直に答えると、芹沢先生は笑い出した。


「青山先生ったら幸せボケですかー?」


「ち、違いますよ」


「隠さなくてもいいんですよ。僕なんて女房の尻に敷かれるわ、大学生の娘には煙たがられるわで家では肩身が狭いんですから。いやあ、うらやましいなぁ」


大学生の娘という言葉にドキっとした。


俺ももう50歳。


そういう年の子供がいてもおかしくないんだ。


「…」


何とも言えない不思議な気持ちになる。


今までは流星と自分の2人だけの未来を思い描いてきた。


そこに新たな生命が加わるところを想像してみる。


…きっと、それもそれで楽しいのだろう。


思わず笑みが浮かぶ。


「さっきから急に黙ったり笑ったり。今日の青山先生、変ですよ?」


「やっぱり幸せボケってことにしておいて下さい」


俺は立ち上がり、窓の外を見た。


空は今日も透き通るような水色で、まるで俺の心を表しているかのようだった。