夢でいいから~25歳差の物語

私の思いをよそに章嘉さんは話を続ける。


「そして決めたんだ。こんな街は出ていこうと。だが…」


「俺が邪魔だった。だろ?」


「皐示っ」


楓さんが鋭く叫んだが、先生は聞こえていないかのように続ける。


「この40年、ずっと考えていたんだ。なぜ俺の両親は実の息子を置いて消えたのか。もし、俺を捨てる気じゃなかったら引っ越しするだけで済んだはずだ。違うか?」


そう言いながら先生の瞳はさらに潤みを増していた。


「違う。何もかもに絶望した俺達は…」


「なんだ?」


またしばらく沈黙が続いたが、やがて重い口が開かれた。


「俺達は、心中しようとしたんだ」


「!」


ふと、ここへ来るきっかけとなった手紙の存在を思い出した。


アルバムに挟まっていた、遺書のような内容の手紙を。


「事件から数週間後、俺達は死ぬ覚悟をした。だが、幼いお前まで巻き込むのは心苦しかった。だから妹夫婦に皐示を託す遺書を置いて家を出たんだ」


確かにあの手紙には皐示をよろしくお願いします、といった内容が書かれていた。


「だが、死ねなかった。生死の境をさ迷った挙げ句、誰かが呼んだ救急車で病院に搬送され、助かった」


「…」


「死ぬことにさえ絶望した俺達は生きるともなく生きていた。捨てておきながら今さらお前の前におめおめと姿をさらすことが出来ないと思った俺達は、毎月皐示のために仕送りを妹達の家に送っていた。今になって考えると、もしかしたら贖罪のつもりだったのかもしれない」


誰も何も口を挟まなかった。