そして気になることがもう1つ。


「俺のことはいい!さっさと逃げろ!さもないと…お前のこと、嫌いになるぞ!!」


あれはどういうこと?


ちょっと期待していたのに、あれから何も言ってこない。


「うん。だって本当は面白いよ、あの先生」


ふいに光森先生のセリフを思い出す。


あ、そうか。


確か、それを聞いた私は「love」ではなく「like」なのか、と思ったんだよね。


多分それと同じだ。


先生があの時言った「嫌い」はきっと「don't love you」ではなく、「don't like you」だったんだ。


だってあの人は、あの人が愛しているのは他でもない私の母だもの。


知っていることなのに胸がズキッと痛む。


あの家で今夜も先生は母に愛を囁くのだろうか。


そして永久の愛を誓い、あの男性らしさを思わせる美しい手で母を抱きしめるのだろうか。


見てもいない映像が、頭の中に水のように流れ込んでくる。


そんな嫌な映像を振り払うように私は教室に走って戻った。


教室ではクラスメート達がみんな同じ話題で騒いでいた。


さすが進学校。


教室は受験モード一色だ。


「アタシ、国公立クラスにいるけど私立大行くの」


「ワタシも」


「オレは国立だな。それで医学部」


「よっ、医者の卵!」


私だって受験生。


恋にうつつを抜かしてばかりはいられないのはわかっている。


せめて今だけは…受験のことを考えなきゃ。