5月5日。


「乾杯!」


私と先生はワインの入ったグラスをカチンと合わせた。


「50歳の誕生日おめでとう、先生」


「ありがとう」


先生はこの季節の風よりも爽やかに笑った。


「では、50歳を迎えた青山皐示さんから一言お願いします」


突然の私の無茶振りに彼は焦る。


「え?ええと…私、青山皐示は本日50回目の誕生日を迎えたわけですが…これからもますます精進して参りたいと思います。どうぞよろしくお願いします」


「はい。ありがとうございました。続いて青山皐示さんに…」


「もういいよ」


私がさらに何か言わせようとするのを、先生は苦笑しながら遮った。


「いやあ、それにしても私達の最初の出会いから8年も経つのか。早いなあ」


グラスを傾けながら私はしみじみと言う。


「だな」


先生もしんみりと相槌を打った。


「先生が私の生物の授業の担当になって。母さんと結婚して、離婚して。私達の交際が始まって、そして結婚して、記憶を失って、取り戻して。先生が命を狙われかけて」


「そう考えると本当に俺達って紆余曲折を経てきたんだな」


「そうだね」


長かったようであっという間だった8年。


色々なことがありすぎて慌ただしかった。


だけど、先生と一緒だったからこうして今、笑っていられるのかもしれない。


私はふふっと密かに笑ってワイングラスを口にした。