7年後、秋。


あたしは病室の窓から散りゆく葉を眺めていた。


復讐に失敗し、こうして警察病院のベッドの上にいる。


情けない。


仇討ちの相手が青山先生と知ってさえ、なおも目的を達成しようとしたのに。


そのために病体に鞭打ってこれまで生きてきたのに。


あたしは約2ヶ月前のことを思い出す。


いざ先生を撃つという時、ふいにフラッシュバックした先生との数々のメモリー。


デートしたり、放課後にたわいのない話題で笑いあったり。


そして彼を好きだった頃の自分がいきなり甦って、射殺しようとするあたしをためらわせた。


だから、撃てなかった。


そうか。


結局あたしはあたしに負けたんだ。


自嘲の笑みがひとつ、こぼれる。


まさか自分自身に足元を掬われるなんて。


父親の復讐を、仇敵本人に出来なかったからといってその弟にするなんてことをしたのがいけなかったのか。


だから心に隙が出来てしまったのか。


それに相手がかつて愛していた人だったから。


付き合っていた頃、果たして先生は気付いていたのだろうか。


自分の兄が殺めた相手の娘があたしということに。


いや、今となってはそんなことを考えても意味はない。


あたしは多分もうすぐ殺人未遂と銃刀法違反の罪で裁かれる。


もし罪を償い終えて檻から出られる時が来たとしたら、もっと明るく生きたい。


復讐するより、中学生の時みたいに笑って、恋して、生きたい。


そんな思いがふいにこみ上げる。


「恋、か…」


先生の12年前の笑顔が目に浮かぶ。


そして思った。


あたしにはきっと一生、青山先生を殺すことなんて出来ない。


まだくすぶっているかすかな恋心の存在を感じながら、あたしは再び落ちていく葉を眺めていた。



Special episode3「秋-落葉の偽り」完