夢でいいから~25歳差の物語

春。


俺は職員室の窓からぼんやりと無人のグラウンドを眺めていた。


この当たり前のように見ていた景色も今日で見納め。


4月から柏原(かいばら)高校に異動することが決まっていた。


源氏はもちろん、生徒達はこのことを知らない。


おそらく、今ごろ各教室で配られているであろう異動教員一覧表でやっと知った頃だろう。


源氏はどう思うのだろう。


清々するとでも思っているのだろうか。


それとも…。


「青山先生、そろそろ離任式の時間ですよ」


同じく今日でこの中学校から旅立つ、学年主任の先生が声をかけてくる。


「あ、はい」


慣れないスーツの裾を正し、俺は職員室を後にした。


「先生!行かないで下さいよ」


「そうですよ。おれ、寂しいです」


体育館に向かう途中の廊下で、顔見知りの生徒達が嬉しい言葉をかけてくれる。


「ありがとな。お前達のおかげで楽しかったよ」


嬉しいのに。


嬉しいのに生徒の波の中に源氏の姿を探してしまう。


「源氏…」


「え、源氏?!美綺がどうかしましたか?」


俺を囲む生徒の輪の中にいた、源氏の親友だという木下遥がすかさず反応した。


「いや、なんでもない」


「…そうですか」


木下はなぜか少しニヤつきながら走っていった。


何なんだ、あいつは。


疑問を抱きつつ、俺は体育館へと歩を進めた。