~Side美綺~


9月。


夏休みがあっという間に終わって新学期になっても、あたしと先生の関係は相変わらずだった。


放課後に1人で理科室に行き、先生と他愛のない話をするのが最近の日課だ。


自分だけの秘密の時間。


「源氏。今日の授業中、寝てただろ」


いつもなら絶対に寝ないのに、今日は夕べの夜更かし(数学の宿題が終わらなかったため)のせいであろうことか、青山先生の授業でついうっかり居眠りしてしまったのだ。


「…すいません」


「ったく、次からは寝るなよ」


「わかってます。先生の話、ちゃんと聞きます」


「おっ、いい心がけだ」


先生はニッと笑う。


「先生、いい声してますしね」


「そっちかよ」


「あぁー、せっかくほめたのに」


「なんだ、それ」


そんな下らない会話もあたしにとっては幸せだった。


誰も知らない秘密を抱えている優越感に浸ってさえいる。


あたしは急に先生に抱きついた。


「げ、源氏」


突然のことに慌てふためく先生、可愛い。


「先生。大好きだから」


「…ああ」


ためらいがちに頭を優しく撫でてくれる。


緊張しているのだろうか、少しその手は震えているみたい。


あたしは急に湧いた嫌な予感を忘れたくて、息苦しいくらいに先生の胸に顔をうずめた。


こうして2人でいられるなら、何もいらない。