俺は初めて見る源氏の大人びて、かつ穏やかな表情に何も言えない。


「否定しないんですね。良かった」


「え?」


さっきの悲しげな表情はどこへやら、彼女には朝に見た時と同じ、明るい笑顔が戻っていた。


「なんか先生とキスしたらちょっと癒されました」


「こ、このませた中学生め」


恥ずかしくなった俺は悪態をついた。


「そんなこと言って本当は嬉しいんじゃないですか?先生、顔が真っ赤ですよ」


「黙れ」


「素直に言えばいいのに」


「うるさいよ。しかもちょっとってなんだ、ちょっとって」


「もっとしたら完全に元気になると思いますが」


「バカ」


「あはは」


目をそむけた俺を見て源氏は笑い、そして今度は真面目な顔で言った。


「どうせ時間が限られてるなら今、笑顔でいた方がいいですよね。限りある先生との時間を別れを嘆きながら過ごすなんてもったいないですよね」


俺が返事の代わりに微笑むと、彼女は満足げにうなずいた。


「先生」


「源氏」


俺達はベッドに寝転がり、寄り添い合って雨の足音を聞いていた。


そして源氏の背中に手を回すと、彼女も俺の真似をしてくる。


「あたし、時間が限られているなら、先生のすべてを知っておきたいです…」


「俺もだ」


再び唇を重ねると、彼女の腕にいっそう力が入った。


「離れたくないです、先生」


彼女の声がし、雨の音が一段と強くなる。


「俺も。お前が好きだ」


目を閉じて源氏の甘いシャンプーの香りに溺れているうちに、俺はいつのまにか意識がなくなっていた。