「怖い?」


彼女は不安げな視線を投げ掛けてくる。


「いつか俺達は引き裂かれる。それが怖いんだ」


「先生とあたしが教師と生徒だから?」


俺はうなずく。


「あたしもです。秘密はいつか漏れます」


俺はまたうなずき、そして言う。


「仮にお前が高校生になって生徒と教師の関係から逃れられたとしても、お前にも俺にも未来がある。その長い長い時間の中、この恋を貫くことが出来るか不安なんだ。こんなに好きなのにどうしてこんな気持ちに…」


源氏の表情は不安の色に満ちあふれ、風に吹かれたら消えていってしまいそうだった。


今、俺の腕の中にあるこの愛おしい温もりも、いつか失う。


なるべくポジティブに物事を考えたいのに、不安が岩から出る泉の水のように絶えずこんこんと湧き上がる。


ちょうど大海をえぐるがごとく回る渦潮にとらわれて抜け出すことが出来ないように、俺は逃げられない不安の渦に巻き込まれていた。


と、その時。


ふいに源氏の手が俺の後頭部に伸びてくる。


そして淡雪が溶けるようにそっと唇を合わせた。


「…」


彼女が渦潮から俺を助けてくれたように思えた。


胸の鼓動が早くなる。


「もし秘密がバレて会えなくなってしまったとしても、あたし達は心の中ではずっと一緒です」


「…」


俺は驚きのあまりただ黙っていた。