でも、もう戻れない。


彼女は俺を愛してしまった。


俺も彼女を愛してしまった。


今の俺には源氏が納得する別れ方を考える気力もない。


何より、彼女を手放したくなかった。


こんな自分をまっすぐに愛し、慕ってくれる源氏(あいつ)を切り捨てるなんて出来ない。


どうすればいいんだ。


心の中で疑問を投げ掛けてみても誰も答えてくれない。


ただ雨が風に吹かれて窓に叩きつけられ、ザアッと音がしただけだった。


俺は静かに目を閉じる。


色々と考えていたら更に疲れたのか、思考が深い闇に吸い込まれていきそうだった。


ゆっくりと眠りの世界に誘(いざな)われていく。


数秒後、俺は軽い寝息を立てていて、次に目を覚ました時には源氏の顔が近くにあった。


「うわっ」


「人の顔見て第一声がそれですか」


源氏は苦笑する。


「いや、そこにいるとは思わなかったから」


「あはは」


「…」


この笑顔もいつかは見れなくなる。


そう思うと胸が詰まって何も言えなかった。


「先生?」


「源氏」


たまらなくなって源氏を抱きしめる。


「先生、どうしたんですか?」


「怖いんだよ」


23歳も年齢が下の、しかも生徒であり、恋人である彼女に弱いところを見せたくなかったが、今の俺はそんな気持ちにかまっていられなかった。