ザアアー。


雨の音がうるさい。


とりあえず座布団に頭を乗せて寝転がったが、眠りにつくのは不可能そうだ。


どうも目が冴えてしまう。


寝るには変な時間だからだろうか。


身体的には少し疲れているというのに。


そんな時に最初に思い浮かんだのは源氏の顔だった。


そういえば今日は色々な表情の彼女に会えた。


殊勝な微笑み。


子供のように興味津々に魚の見た時の顔。


キャーキャーとはしゃぐ笑顔。


駅前で見せた、逆境を嘆く悲しみに満ちた表情。


そのひとつひとつが、俺の中で空に散らばる星のごとくきらめいて思い出になっていく。


ふいに俺は恐れた。


いつか彼女を誰かが奪いに来ると。


俺に見せてくれたあの様々な表情を今度はそいつが独占するんだ。


正直、今のこの恋が永遠のものだと思えない。


それは焦りに近かった。


秘密だっていつかばれる時が必ず来る。


しかも源氏はまだ14歳だ。


出会いの場が無限にある。


高校に上がり、そして大学にも行くかもしれない。


そして最終的には社会に出る。


その間にも彼女は様々な男に会うだろう。


彼らに勝てる自信が俺にはない。


そして何より、俺が父親を殺した犯人の弟だということに彼女が気付くのが一番怖かった。